元気に働くための医療
美唄市医師会・築島 健

「医学・医療は何のためにあるの?」と、40年もの間、医学生であった頃から考えていました。 先日私は父を見送りましたが、私にもきっとその時が来ます。
生物は必ず死にます。 人もその例外ではないのです。命を永らえることを医学・医療の目的とするならば、それは「叶わぬ夢」です。
「医学・医療の目的は生命を永らえることである」とするならば、医学・医療はそれがどんなに進歩しようと永遠にその目的を達することはありません。
必ず「敗北」することが決まっています。医師になって数年経った頃、救急医療に従事していた私は絶望しました。 助けられない命があまりに多いことに。
医学・医療は「死」の前にはあまりに無力で、「敗北」が運命付けられていることに。 その後、医師になって30年ほど経って、ある大企業の専属産業医をしていた頃、「人が元気で働くこと」が企業を回し、経済を回し、文化を醸成し、社会を作ることになる。 人の労働を医学的な分野で支えることの重要性に思い至りました。その「労働」は決して企業等で労働の対価を得て働くことだけを意味しません。 会社やご商売から引退しても、自分のために、地域のために、隣人のために、愛する人のために、何かしらの活動をすること、それが「働くこと」であると考えたら、 人は死ぬ間際まで働くことができます。
人はいつか死ぬけれど、死ぬ直前まで元気で活動し続けることを可能にすることができたら、私たちの社会はどれだけ豊かで楽しいものになるでしょう!
そしてそれは「叶わぬ夢」ではありません。
人の命は有限でも、人のこころと文化は永遠です。美唄の街は今から何十年も前に日本の高度経済成長を地底から支えました。 命をかけて働く美唄市民の力がこの国を回していました。
そして、いま、この街に住む人は2万人を切ってしまいました。
最近の人口推計によればこれから増えてゆくことはないのだそうです。
ならば私たちは、ここに住んで、命の終わるその直前まで元気で働き続けようではありませんか。 医学・医療がきっとそのお手伝いをします。
そうした意味では医学・医療は「敗北」しません。これまでも、これからも。
(執筆者紹介/美唄すずらんクリニック院長)