転ばぬ先の杖−
高齢者の転倒と脊髄損傷

美唄市医師会・松本 聡子

脊髄神経を損傷すると、四肢の麻ひだけでなく、多くの臓器に症状が現れます。例えば、交通事故や高所からの転落のほか、 平地で転倒しても四肢が麻ひすることがあります。
高齢の方の場合、特にその傾向が高く、家の中の段差につまずいて頭を壁や家具にぶつけたり、階段を数段踏み外して頭を ぶつけたりすることで脊髄神経が傷付いてしまい、手足が動かない麻ひが起こるなど、ちょっとした転倒で重症の麻ひが 起こりやすいといわれています。
近年の高齢者は大変お元気で、とても活発に活動されていますが、それが思わぬ事故につながることもあります。美唄のように 雪が多い地域では、除雪や雪下ろし作業などがその例です。「安全だ」と思っている身の回りの環境に、大きなけがを引き起こす 危険が潜んでいるのです。
さらに高齢者の多くは、加齢によって脊椎が変形しています。中には、すでに脊髄に障害が出始めていても、自身で気付いてい ない場合もあるのです。
「歩きにくくなった」
「指先がもたついて細かな作業がしにくくなった」

といった症状がある方は、 整形外科を受診されることをおすすめします。
転倒し大げかをしないためには、慎重な行動を心がけ、居住まい整え、靴や杖などを工夫することが重要です。また転びにくい 足腰を作るために、自宅でできる「開眼片足立ち体操」というものがあります。これは「ロコトレ」といって、日本整形外科 学会が勧めている体操で、当院外来にいらした患者さんに紹介しています。
「転ばぬ先の杖」−。先人の言葉は、まさにそのとおりと言えます。日ごろからほんの少し気を付けることで、大きなけがから 自身を守ることにつながります。
さっそく今日から、少しずつはじめてみませんか?
(執筆者紹介/北海道中央労災病院せき損センター整形外科部長)